牡丹唐草- 朱溜漆塗ぐい呑 -59.5*59.5*h46
牡丹唐草の彫りに施された繊細な毛彫(線彫)により、動きを感じる景色となっています。毛彫は、漆工後、漆の上から彫られる村上木彫堆朱独自の技法です。(豆知識1参照)
見込みは「赤漆」、黒漆に見える胴は「朱溜漆」が用いられています。「朱溜漆」の透明感は、経年による漆の透明化により徐々に増し、下地の朱色が浮きでてきて深みを感じる美しい景色となります。漆工芸鑑賞の楽しみの一つである「漆は育つ」を理解しやすく味わう事ができる技法です。
伝統の堆朱・堆黒(ついこく)に固執しない、村上木彫堆朱の物作りの柔軟さが実証される技法の一つです。
村上木彫堆朱は鎌倉彫と縁がある漆工芸で見た目の印象は近いですが、独自の漆芸技法により独特な景色、雰囲気となっています。彫りと塗りは分業化されており其々の専門技術の研鑽により創意工夫され進化してきました。(豆知識4参照)
伝統工芸は、伝統技術の継承と共に創意工夫による技術の進化の両輪があってこそ衰退を防ぎ、新たな道を切り開く方法だと実感しました。
《豆知識1》 牡丹唐草作品の制作工程ついて:図案と背景の彫刻の後、図案に漆工を施します。その後、図案(牡丹の花びらや葉等)の漆工表面に表情を表す毛彫(線彫)を行います。
《豆知識2》 村上木彫堆朱の「堆朱」について:「堆(つい)」という字には『積み重ねる』という意味があります。もともとの堆朱は、漆を塗り重ねて厚みを出し、そこに彫刻を施して文様にしたものです。対して村上木彫堆朱は、芯になる木地に彫刻を施し、そこに漆を塗るという技法が採られています。この技法は江戸時代に編み出され、漆の無駄がないこと、躍動感のある彫りや細かい地紋まで表現できる、という特徴があります。(出典:村上市環境協会HP)また、図案部のみに堆朱し、毛彫模様を施した後、仕上げに背景にあたる地紋(凹部)に生漆を摺り込む独自の技法です。地紋は、生漆と木地(朴/ホオノキ)が反応し黒くなります。結果、黒地に朱の模様という景色になります。
《豆知識3》 村上木彫堆朱技法「艶消し」について:鏡面のように曇りなく、艶々と光る他の漆器に対し、村上木彫堆朱は「おぼろ月の光」のような奥深い艶が特徴です。しかし、普段から使用することにより、手になじんだ味わいのある艶が生まれてきます。(出典:村上市環境協会HP)
《豆知識4》
村上木彫堆朱の歴史:新潟の城下町村上で受け継がれてきた伝統の技です。独自の技法が、昭和30(1955)年に新潟県文化財に指定され、昭和51(1976)年には国の伝統的工芸品にも指定されました。(出典:村上市環境協会)