山野千里


美大の油絵科から工芸科へ転科し陶芸家になりました。一つ一つの作品に絵本のような物語がありまり、その物語のエッセンスを造形にしている。造形を簡略化し鑑賞者に伝えたい事を表現するのは、鑑賞者の心に共感して初めて伝わる至難の業。全ての作品のタイトルにヒントを得てその作品の全てと共感する。

蓋物 その一

「ナマズと浮き輪の人」

6161*H67
描かれた絵と蓋の造形とのつながり(ナマズ、人)がある。ナマズと脱力した浮き輪の人の間に不思議な時間が流れている。“湖水浴”の抜群の構成アイデアと造形力に“心”を打ち抜かれました。水面の立体と水中の平面の切り替えと繋がりが、絶妙です。形状も相まって、水上から見た水中風景に感じます。水面に見立てた蓋部と器部の風景の関連性が面白く、不思議な空間を感じます。フジタミサトワールド満載の逸品。会場では、“にこにこ”し過ぎて“ほっぺ”が疲れました。
『湖水浴』 *懲りずに下手な童話を書かせて頂きました。
「少年が湖で水浴をしていると、目の前の水面が、突然大きく盛り上がりましたそこへ、大きな、大きな“湖の主”がゆっくり、顔を出しました。少年は、その大きさに、呆気に取られました。“食べられる!?” 動こうにも騒ごうにも、身体が言うことを聞きません。“主”は、少年に気が付かなかったかのように、また、ゆっくりと水中に消えていきました。“主”が消えた後、少年は“暖かな不思議な感覚”になりました。“主”と“眼”が合ったような気がしていたのです。その瞳は、大きさから恐怖を感じた印象とは違い、優しく、いたずらっぽい、瞳に思えました。“主”と思いましたが、“湖主の子”だったのです。“湖主の子”は、お母さんから「絶対に水面に出てはいけないよ!」「人に見つかると食べられるよ!」と言い聞かされていました。“湖主の子”は、少年が楽しそうに、はしゃいでいる声を毎日聞いているうちに、水面は、どんなに楽しい所なのか見てみたくなったのです。お母さんに怒られるのが怖かったので、少しだけ水面に出てみる事にしました。“湖主の子”も、少年と“眼”が合っていたような気がしていました。少年の姿は、硬直して身動きできない様子でしたが、瞳は、好奇心旺盛で、キラキラと輝いていたように思いました。互いに“心”が通じ合ったような気がしていました。」‥‥(続く?)
作文下手で筆不精の私が、思わず童話まで書いてしまいました。そんな気にさせる強力な陶力。“湖水浴”は、最高の逸品です。