有本空


美濃焼作家や原材料業者のもとに通い詰め、志野の研鑽を積みました。地元広島に築窯し志野焼茶碗は酬恩庵一休寺(京都)や薬師寺(奈良)などに収蔵されています。作陶の切掛は「豊蔵資料館を訪れて一つの茶碗の前でドキッ!欲しいとかではなく自分が作らねば!という感覚だったそうです。

志野ぐい呑「衣」

 6767H56
轆轤挽きしたぐい呑の造形に紐状に造形した土を一本ずつ貼り付け衣を表現しています。貼り付け具合が良くないと焼成の際剥がれ落ちる根気のいる作陶です。

志野彫貫ぐい呑

 7873H55
造形の荒々しさは志野の造形としては新規性を感じます。唐津焼の高台で多く見られる「ちぢれ削り」ですが、有本作品の多くに用いられています。百草土作品では類を見ない景色です。土の具合や削り技術の研鑽なくしては表現できません。初めて拝見したときの感想は「クッキーのようで美味しそう」でした。

志野ぐい呑

72.5*70*H43
あえて作陶してこなかった白い志野
唯一無二の作陶を研鑽し、作り手は多くの独自の志野を生み出してきました。
本作品は、極めて基本的な白志野ながら、景色は極めの細かなとろみと穏やかな光沢、鉄絵の濃淡に赤みが現れています。
お酒を注ぐと見込みに浮き出る鉄絵の揺らめきは、実に楽しく、美しい景色です。
研鑽を重ねた経験が生かされた景色です。
柿渋ぐい呑 6060・H57
オリジナリティのある「楽」の研鑽も重ねて来られました。楽焼きでは、土や釉薬の原料にこだわり、本科と同様の手押しフイゴから始め、特注製作し焼成を行うなど、本科を踏まえた作陶を行い、その先にある唯一無二の魁を目指されています。その中で、方向性が見えた一つが 「 柿渋 」と名付けられた作品群です。(「柿渋」の作陶について、土や釉薬、焼成方法をご自身のブログ「有本空玄の陶芸ひとり言」で解説されています。)「柿渋 」の特徴は、色合いもさる事ながら、咲き賑わう小花のような小さな結晶状の貫入と青磁のような微細な泡が絡み合い、煌めきを増幅させている景色です。写真や印刷では、表しきれない景色となっています。最初に拝見したお茶碗は、地色が深い柿渋の色みという事もあり、特に見込みは、一層の空間感があり、独特な貫入が、噴き出さんばかりに咲いているように見えました。お茶碗を包むように両手で持ち上げると、まるで光を手ですくい上げているような感覚になりました。ぐい呑の景色は、お茶碗程ではないにしても、極小の輝く花のような独特な貫入と微細な泡が景色となっています。小さなぐい呑は、お茶碗とは土や釉薬の厚さが違う為、同様の作陶では、同じ景色、雰囲気にはならないと聞きました。ぐい呑みのための研鑽を重ねられたそうです。青磁の中で本作に近い印象の貫入は、使い始めると水気が入り消えますが 「柿渋 」の貫入は、ほとんど変化が見えません。青磁の出来立ては、貫入がしばらく入り続けますが、「柿渋」は誕生したばかりで、育つ過程は未知です。希少な土、木が底を突こうとしているそうです。理想の景色を求めるが故に歩留まりの悪さが拍車をかけます。もうこの景色を生み出せなくなるのか…しかし、多くの研鑽を重ねることで多くを打開してきた陶芸魂は尽きることはないはずです。
柿渋ぐい呑-2023- 69・69・H56
前回作品との比較で見ると今回の落ち着いた赤味は発色が良く、全体にクリア感が増しています。口縁と腰、見込みの濃淡のある黒は、落ち着いた赤味とのコントラストが美しいです。内側の黒斑は、表面の斑紋というよりも、まるで黄瀬戸のタンパンのように濃く滲み出ているように見えます。明るい赤味により濃淡が強調され美しいです。
今後、貫入による景色の変化を楽しみたいと思います。
サヤ内の繊細な雰囲気の違いで土見せ部の色合いがここまで変わるとは‥焼成の不思議
黄瀬戸ぐい呑 69*67*H47
桃山黄瀬戸には、あやめ手など独特な景色があります。本作は、トロッとしたほのかな艶の中に禾目の流れがあり、穏やかな動きを感じる景色となっており、有本黄瀬戸独自の景色といえます。高温で長時間還元焼成し冷める過程で還元により緑色になった釉薬が見込みも含め口縁、胴まで全体に黄色のグラデーションの景色となっているそうです。手持ちの感じは同様な大きさのぐい呑と比較すると軽いです。これは、志野でも使われる“もぐさ土”と指先で胴を挟み持たないと分からない程の薄い削りによります。見込み茶溜まりや口縁の削り等、造形に茶盌を感じました。これまで勉強、制作して来た茶盌における桃山の志野の雰囲気をぐい呑で表現していければとの思いから、ぐい呑の形や削りの方法は茶盌と同じ方法で造形されているそうです。高台には、有本作品の特徴的な縮緬削りが施してあり、茶盌の造形、独自の景色と相まって、全体から気品を感じる作品となっています。