金重 愫


酒器名人、カセ胡麻(メロン肌)の第一人者。艶消しのカセ胡麻(メロン肌)は、窯の一箇所にある箱で作られるそうです。灰が被り胡麻が流れ固まるときにメロン肌が現れますが、焼成温度が上がり過ぎると溶けてテカリがでます。焼成の調整は、窯の小さな穴の炎の色を見て判断すると言われていましたが、研鑽と経験だけでは決して生み出せない景色です。しかも、掲載の備前扁壷徳利のように全周の広い面でこの景色を生み出すとは‥高台の迷いの無い削りは、修行時代に師匠から「失敗を沢山し、体得するしか無い」と教えを受け「その教えを守り多くの失敗をしてきました」と和かに言われていました。名刺にEメールアドレスが記載してあったので試しにメールをしたらご本人から返信を頂きビックリ!Facebookの友達リクエストもご本人から頂きました。陶芸は体力勝負でもありますが、全国でトライアスロンもされていたとお聞きし、そのチャレンジ精神に驚かされました。
1945年 岡山県に金重素山の長男として生まれる1979年 京都大学農学部卒業後、父金重素山のもとで陶芸の道に入る2011年 山陽新聞文化功労賞受賞2019年 岡山県文化賞受賞

備前扁壷徳利

10692H134
造形した後、両手で包み込み内側に向けて柔らかく絞り込み、この植物の実のような生命力を感じる造形を生み出しているそうです。本作は見事なカセ胡麻(メロン肌)が全周に広がる美しい景色となっています。

窯変筒ぐい呑

5352H66
桟切(さんぎり)とカセ胡麻(メロン肌)、暖かな美しい緋色が相まった深い景色となっています。

窯変ぐい呑

81*78*H40
初めての愫酒呑「カセ胡麻(メロン肌)」と出会った作品です。「窯変の隈とカセ胡麻のメロン肌、どちらが難しいですか?」とお尋ねすると「それは……どちらも難しい」とお答え頂きました。「カセ胡麻(メロン肌)」は、窯の限られた場所でしか現れない、取れ高が少なく、焼成がたいへん難しい景色と、後日知りました。得意とする景色の方が難しいとは言われなかった備前界でのお立場があるのではないかと推察しました。

備前焼ぐい呑

7065*H41
小振りのぐい呑。柔らかな造形と切れのある高台です。巧みが現れています。

緋襷ぐい呑

54*57*H58
個展会場で緋襷ぐい呑を拝見した際、「ん?土味が違う?」「何としっとりとした明るく温かな色合いの土味だろう」という第一印象を持ちました。
土に動きを感じる造形と高台、躍動感のある濃淡美しい緋色模様は言わずもがな、緋襷の土肌は、緋色模様の単なる素地ではなく、その肌合いと緋色模様が五分に引き立て合う景色こそが、緋襷の醍醐味という境地を目の当たりにしました。
今日まで備前焼好きと自負しているにもかかわらず、緋襷の本質的な魅力を理解できていなかった見識の浅さに焦りました。故にその足で、個展も開催される しぶや黒田陶苑に伺い他の作り手の緋襷も含め、保有されている緋襷を拝見し、緋襷についてご教授いただきました。
先生に感想の便りをしましたら、丁重なご返事を頂きました。
一部ご紹介いたします。
「この土は、私が父素山の下働きをしていた頃に作ったものですが、その残りが土納屋の隅から出てきました。ですから、五十年程寝かした土ということになります。良すぎる土なので今迄使う事が出来なかったのですが、歳を考え少しずつ小さなものに使う事にしました。今備前で一番良い土ではないかと思っております。」
との事でした。
初見第一印象から始まった探求心の昂りは、備前焼好きの面目躍如といったところでしょうか!
鉄絵高麗ぐい呑64*64*H62
白化粧土を使う粉引きに近い作品です。初めて粉引に挑戦された作品です。堂々としていて迷いの無い筆さばき、濃淡が美しいです。造形は「備前焼に釉掛けをしただけと思われたくなかったので…」と工夫されたそうです。この度の作陶で難しかったのは、未だに追われている「土造り」と言われていました。釉薬との融合や土見せの焼き上がり等、イメージに近づける為に土のブレンドによる研鑽を重ねられているそうです。透明釉は、研鑽の結果、父上が残された材料の透明具合が良いので使われ、その他の灰釉は、桃の木や栗の木など、全て手元にある材料から作られたそうです。「鉄絵」は、還元の具合により味のある色合いの景色となっています。「絵高麗」は、白化粧土を使う粉引きに近い作品土の細かな粒と白化粧土との融合は、暖かな色合いと細かな隆起として表れ、なんとも深みのある白地となります。色絵の中で、深い藍色の濃淡のみで描かれた作品は、まるで墨絵のようです。タップリとした迷いの無い筆の運びに感じ入ららました。深い藍色は、呉須に鉄化粧を加えて作られたそうです。ムラの少ない均一の面状に描かれた景色は、平筆で描かれました。備前本道の作陶では無いからこそ技術の既成概念に捕われず、迷いを感じない作品となっているのだと思います。備前焼の巨匠でありながら半端無い研鑽を重ね、絵高麗や鉄絵、色絵など美しい造形と景色の作陶となっていました。チャレンジ精神に感服!

絵唐津斑ぐい呑

72*68*H56
細かで美しい貫入の景色となっています。柔らかな造形と筆の走りは愫イズムです。

絵唐ぐい呑

65*63*H53
鮮やかで深みのある色合いと斑唐津の細かで美しい流れの景色に一目惚れでした。

斑唐津盃 



斑唐津は、藁灰釉の乳白色の素地に、焼成時に降り注ぐ松灰が茶色や黒色の斑点を形成し、斑模様になることから、この名が付けられたそうです。
本作は、美しい乳白色の色合い、とろりとした藁灰釉の流れや溜まり、見込みの斑模様、釉薬の流れに繊細な禾目があります。私好みの景色が満載です。
また、酒器名人の作り手らしい造形が相まって、ゆったりとした癒しの雰囲気を纏っています。

志野ぐい呑

70*67*H61
志野作家有本空玄窯のもぐさ土で造形し有本さんが焼成した志野ぐい呑です。鉄絵は、大胆な筆運びで口縁から内胴にも描かれており、力強い印象となっています。有本さんは焼成を失敗できないプレッシャーに焼成途中で心が折れそうになったと言われていました。