伊勢晃一朗


備前土の特性を熟知し、土味を引き出す作品を追っています。新しい備前を見せてくれる備前の作り手です。彫刻科出身らしい大胆な造形と真摯な作り手としての人柄を感させます。作品の大小に関わらず表現されています。

備前酒呑

8175H64
本作の姿には、茶花の枯蓮葉の力強さにも似た力強い“生命観”を感じます。造形と胡麻の景色に一体感のある素晴らしい作品です。個展会場で酒呑の棚前に立った時、真っ先に目に入ってきました。引き出し黒や黒の作品を見ていても、本作が気になって何度も手に取りました。本作の造景一体の佇まいは、気品をも醸し出し、強い陶力を感じました。本作の造形を「勢いを出したかった」と言われていました。“勢い”は“荒々しい”とは違います。図抜けた造形力が、“勢い”を生命力や緊張感のある造形に仕上げられています。作品に込められた作者の想いや願いは、幾つも伝わりません。作り手の想いを一層強く感じるのは、受け手が感じたいと思う作品である事と、受け手の感じようとする心との相乗効果に他ならないと考えています。このような作品には、なかなか出会えません。用の場でも卓越した造形力は、発揮されました。口縁造りです。胴の有機的な造形はその勢いを口縁で放出しています。よって、隆起が激しくお酒が間を伝って垂れると想像していました。実際、瞬間は感じたものの、コツがつかめれば、全く気になりません。口縁の内側の大きな面取りは、上唇との相よう感が高く、実に呑み心地がよいです。独特な造形の定番シリーズの意味を初めて深く理解できたように思います。

引出黒酒呑 その一

7579H64
備前酒呑と同様な造形方法です。枯れ寂びた蓮の葉の葉脈に引き出し黒の深い景色が映えます。植物感を持つ造形は自然物の柔らかさや茶道の侘び寂びを感じます。

引出黒酒呑 その

8280H58
引出し黒のコバルトの深さ美しさは言わずもがな、造形的な高台は備前に新たな可能性を感じさせます。

備前緋襷酒呑 その一

8383H48
引出黒酒呑その二と同じ造形方法です。造形的な高台部は削った後に造形します。

引出白土酒呑

8383H60
クズ土を焼成で引出しした事により見込みに自然釉が溜まり、新しい琥珀の様な輝きが生まれました。

備前緋襷酒呑 その二

7373H65
何かの実のような球体のような造形です。濃く鮮やかな緋襷、土色も明るいです。伊勢﨑家窯独自の設計により生まれる緋襷と聞きました。

黒徳利

8383H155
本作の景色は、炎により溶け流れた黒土が、極厚の金色胡麻の溜まりに落ちて出来ました。焼成で現れる青い色素と胡麻が、時には柔らかく融合し、時には激しく反応した、不思議な景色となっています。景色を「宇宙」に例える事があるが、本作は、正に「宇宙景」のようです。金色星雲の間に間に見える銀河の誕生遙か彼方に誘うブラックホール青白い光を放つハート形の間からは、ゆっくりと膨張し続ける銀河の流れ意図して作陶できない、神の領域です。