柿渋ぐい呑 60・60・H57
オリジナリティのある「楽」の研鑽も重ねて来られました。楽焼きでは、土や釉薬の原料にこだわり、本科と同様の手押しフイゴから始め、特注製作し焼成を行うなど、本科を踏まえた作陶を行い、その先にある唯一無二の魁を目指されています。その中で、方向性が見えた一つが 「 柿渋 」と名付けられた作品群です。(「柿渋」の作陶について、土や釉薬、焼成方法をご自身のブログ「有本空玄の陶芸ひとり言」で解説されています。)「柿渋 」の特徴は、色合いもさる事ながら、咲き賑わう小花のような小さな結晶状の貫入と青磁のような微細な泡が絡み合い、煌めきを増幅させている景色です。写真や印刷では、表しきれない景色となっています。最初に拝見したお茶碗は、地色が深い柿渋の色みという事もあり、特に見込みは、一層の空間感があり、独特な貫入が、噴き出さんばかりに咲いているように見えました。お茶碗を包むように両手で持ち上げると、まるで光を手ですくい上げているような感覚になりました。ぐい呑の景色は、お茶碗程ではないにしても、極小の輝く花のような独特な貫入と微細な泡が景色となっています。小さなぐい呑は、お茶碗とは土や釉薬の厚さが違う為、同様の作陶では、同じ景色、雰囲気にはならないと聞きました。ぐい呑みのための研鑽を重ねられたそうです。青磁の中で本作に近い印象の貫入は、使い始めると水気が入り消えますが 「柿渋 」の貫入は、ほとんど変化が見えません。青磁の出来立ては、貫入がしばらく入り続けますが、「柿渋」は誕生したばかりで、育つ過程は未知です。希少な土、木が底を突こうとしているそうです。理想の景色を求めるが故に歩留まりの悪さが拍車をかけます。もうこの景色を生み出せなくなるのか…しかし、多くの研鑽を重ねることで多くを打開してきた陶芸魂は尽きることはないはずです。