淺田尚道


“伊賀の七度焼き”を遥かに越える多重焼成で“作陶の神髄”に迫ります。多重の焼成によりヒビや割れが繋がり、新たな景色を生み出します。新作で金直しが並ぶ個展会場には、通常の陶芸展とは次元が違う雰囲気を感じます。

灰被盃

125120H40
魅惑の景色を求め、修行者の如く繰り返し、繰り返し、焼き切る作陶です。

灰被盃

9782H42
月の表面のような見込みの景色。灰が多重に降り、溶けた灰と溶け出た土の含有物が微妙な色合いで相まって深い景気となっています。裏は成層圏から見た雪原から川へ流れる景色のようです。小さな高台部の金直しはアクセントとなっています。多重焼成だからこそ生み出せる景色です。

大直

6060H58
淺田作陶の真骨頂である、多重焼成・多積灰被です。朝鮮唐津のような景色は、ガラス化した灰と釉薬が相まって、トンボ玉のようなガラス質の流れとなっています。ところどころにある土の含有物が噴出してきたような鉄色。潤いを含んだ見込みは、まるで、日の光に照らされた水涌き出でる澄んだ湖底の様です。お酒を注ぐと現れる、煌めきと共に揺れ動く景色は、絶景となります。これぞ、土と灰を多重に焼き切った証です。複雑な景色のガラス層は、鉱石化した“宝石”の輝きとなっています。口縁には大きな“金繕い”、前代未聞の新作です。

六角灰釉酒呑

6264H44
多重焼成による再成形、肉薄の造形を多重焼成すると溶けて肉が薄くなりところどこと欠落してきます。多重焼成により、その欠落部に自然釉がかかり硝子質の膜ができ再成形となります。多重焼成は崩壊と再生の繰り返し、これも唯一無二の景色です。

灰釉酒呑 

7272H50
焼成中、他の作品が爆裂し、破片が奇跡的に見込みに落ちたようです。陶片は、多重焼成により銀化し、濃厚な灰釉は流れを生みます。この景色は、私好みの観点の一つである「見込みの勝負」の愛陶心を鷲掴みにしました。先にご紹介した“大直” は「泉湧く湖底」のような近景に見えました。本作品は「光を蓄えた雲海に浮かぶ、陽光に煌めく山頂」のような大空から見下ろした遠景にも見えます。酒を注ぐと色合いが鮮やかになり、山が煌めきます。見込みと胴の灰釉は、多重焼成により、流れが折り重なり、深い景色となっています。高台横には、トンボの眼のような釉溜まりも現れています。「淺田尚道先生の作陶の執念は、奇跡を生む!」と言える逸品です。

瓷酒呑

6363H79
高温焼成を重ねる事により土の含有物が表面に溶け吹出し、太陽黒点のような黒い点と窯変によりギラギラした光沢が金色に輝く景色となっています。通常の焼成は、炎の巡りや灰被りの状況により、胴と見込みの景色は異なりますが、見込みの景色からも表面的な景色ではなく土から溶け出した含有物により生まれた景色と考えられます。釉薬を使用した作品や灰被りの作品もありますが、この作品は無釉で炎のみが到達する窯の奧に置き、焼成を重ねた事で極端に現れたようです。高台は炎が当たってない部分です。この部分にも溶け出した成分があり、炎による窯変は起こっていません。土は全て同じでありながら千差万別な景色を生み出す淺田焼成は、土の力を最大限に引出した作品を生み出す手法と言えます。高温焼成に耐える土を作り込み、焼成に使用する備長炭クラスの炭は窯の投入穴の寸法に合わせた特製です。焼成は少なくとも5回以上、焼成中の爆発や崩れ、一窯全滅もあるそうです。

斑唐津

68*68*H52
何をもって斑唐津と呼ぶのか?マダラ(斑)模様だから斑唐津と言うならば、本作は、紛れもなく斑唐津。力強さ、凜とした佇まいを感じます。細かな釉薬の流れ。鮮やかで暖かな釉の色合い。手にするとその温かみが伝わってきます。初めての淺田作品!細かな釉薬の流れた景色に魅了されました。

黒酒呑

62*59*H62
幾度焼成したのだろうか。土を焼き切る先に、割れが生じ、割れが塞がっています。土の養分が染みだ出し、自然釉と反応をくり繰り返しています。黒の中に複雑な景色を見せています。煌めきと艶やかな陶肌に、魅了されました。持ち手にその土の動めきが、伝わってきそうな景色です。景色にコバルトの青が浮き上がり、黒と相まって、深みのある景色になっています。思わず力強く握ってしまいます。深々と寂びている逸品です。