三上 亮


土を掘り、粘土を育て、薪を割り、蹴轆轤(けろくろ)を足で回し、自ら作った窯で陶器を焼き上げます。今できたばかりの新作にも関わらず、彼の作品には古窯の中から掘り出された陶器のような歴史が刻まれているのを感じる。 それは、しつこいほどに注がれる焼き物に対する情熱で、先人たちの技術を探り、その上で「焼き損じの中に美しいものを見つける」という、規範の「美しさ」に捕らわれない心の強さから生まれているのかもしれない。 そんな彼のものづくりの意識は、大病からの復帰、東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故の発生を経て、大きく転換していった。芯技法を「キュビズム」と名付け、2012年発表します。作品名は『STARDUST』、その作品を目にした人々は、皆驚きに包まれます。(三上亮 作陶ドキュメンタリー『STARDUST』紹介文より抜粋)1959年北海道生まれ 東京藝術大学大学院修了故・浅野陽に師事 2021現在 東京藝術大学 美術学部 工芸科 教授

STARDUST 器

7676*H79
ポキポキと1cm四方に折った、土でもあり釉薬でもある素材を、設計図もなく、自らの揺らぎのままに積み上げてゆく。陶芸成形の既成概念を超えた作りです。

JOYぐい呑

65*69*H65
人体トルソーのような柔らかなラインです。湖に積もる雪のような、青みのある白い作品群です。会場の先品は、イメージ以上に透明感があり、初めて拝見する景色に魅了されました。拝見している内に、様々な造形ではありますが、何かしらの共通感がありました。花器の一つが彫刻の“トルソー”に見えてきました。“トルソー”を意識した造形と感じた途端に全作品のテーマを理解できました。作り手は「テーマは“トルソー”です。“人”とすると生々しくなるので…」と言われました。本作は、トルソーを強く意識したぐい呑です。省略された造形によるトルソーです。その静寂の白景色と共に柔らかな肌合いとなっています。その佇まいが、景色となっている逸品です。

玻璃象嵌黒ぐい呑

80*78*H43
吸い込まれるような、侘寂のカセ黒に包み込まれています。見込みに象嵌された玻璃は、モクモクと沸き立つ細かな煌めきを含みもった黒雲の隙間から、天空が見えているようで不思議な景色です。口縁は、柔らかな指の動きを写したようにポッタリと柔らかな仕上げです。見ただけで呑みたい衝動に駆られる陶力です。

窯変ぐい呑

赤銅色

82*82*H40
釉薬も土も同窯の他の作品と同じでしたが、何故か本作のみ突然変異の輝く赤銅色に…再現できない珍品となりました。

三上黒ぐい呑 その

60*55*H55
シンプルな造形に、静かな煌めきを携えたぐい呑です。その黒は、土と釉薬が一体となり、まるで無垢(ソリッド)の塊から削り出されたのかと思われる程です。自らの名前を付けた黒。シンプルが故にググッと伝わってくる力強さに引き込まれます。

三上黒ぐい呑 その二 

2021

62*68*H56
黒土器の如く「何処を切っても芯まで黒」と思わせる黒の景色です。一部土から鉱物が噴出したような虹色ラスターも見て取れます。胴と見込み、口縁の景色に差異がなく、正に黒土?と思わせます。しかし、高台部の土見せにより釉薬と焼成の匠によるソリッド感だと理解できました。最初にご縁を頂いた三上黒その一にも感じたソリッド感を現在の三上黒まで一貫して追求されてきた証です。また、手元に数多の酒器の中でも数点しか無い口縁の造形にも注目しました。造形せず柔らかな流れで切り取られたまです。釉薬の膨らみと焼成灰の堆積を意図してか胴と同じ景色の唇当たりは柔らかく、呑み心地にキレがあります。最近では、晩酌を控えており晩酌で酒器と向き合う事が少なくなりましたが、昨年から飲み始めた中国茶の茶杯として日々多くの時間を向き合っています。繊細な味わいを楽しむ中国茶には、小ぶりの寸法や土物の保温力の相性がよく、三上黒の景色と相まって日々癒されています。
Picec of Distil
2023日本橋三越個展作品

陶芸の造形には轆轤、手捻り、泥漿鋳込み、くり抜き、等、代表的な技術が有りますが、当作り手は、垂らし、積み上げ、等、独自の造形手法を探求し研鑽を重ねています。
この度の「Picec of Distil」は一旦大壺を作陶した後、破壊し、破片(peace)に釉薬を重ね掛けるという新たな作陶を試みています。
縁の一端は、釉薬の自然な垂れ具合により造形しています。水平に置くことで、重力に反した垂れには、緊張感と共に有機的な柔らかさを感じます。中央部に施された青は、陶肌の白に映え、微泡により美しさを際立たせています。
積み重ねられた造形、焼成の研鑽は計り知れません。偶然ではないこの景色を生み出した作り手には、僭越ながら「さすが」としか言いようがありません。